感想:荒木飛呂彦の漫画術 漫画を描く人だけに限らない「表現」についての本

「企業秘密を公にするのですから、僕にとっては、正直、不利益な本なのです」

ジョジョの奇妙な冒険の作者である荒木飛呂彦が、王道漫画の描き方について書いた本です。

一見、異作と考えられがちなジョジョですが本人は至って真面目にど真ん中の王道漫画を意識して描いています。

漫画の描き方についての本ですが、内容は極めて普遍的です。

映画を含め全てのエンターテイメントに繋がる考え方を学べ、応用可能な良書です。

 

 

最初の1ページをめくらせろ!

初めでは荒木先生が新人だった頃に考えたことについて書かれています。

漫画家にとって最も恐ろしいことは、編集者に袋から原稿を出した瞬間に戻されてしまうことです。

1コマ目を見ただけでダメだと判断されてしまい、ページをめくらないままに原稿袋の中に戻されてしまう。考えただけでもいやですね。

編集者は1日にそれこそ大量の漫画に目を通さなければならないためいちいち読んでられません。

1ページ目をめくってもらえる作品は

①絵が特徴的 ②読みたくなるタイトル ③いいセリフ

の条件を満たしていることがポイントです。

1コマ目からその作品の魅力を強く伝えることで編集者に引いては読者に読まれる漫画になるのです。

漫画の基本四大構造は①キャラクター ②ストーリー ③世界観 ④テーマ

漫画を構成する4概念として、キャラクター、ストーリー、世界観、テーマが挙げられ、前にいくほど重要な概念となります。

漫画の基本四大構造と言いながらも実際には映画でもドラマでもなんでもこの構造を応用することができます。

 

キャラクター

強力なキャラクターはそれだけで漫画を描くことができてしまいます。

魅力的なキャラクター(例えば両さん)に事件を用意すれば一話描くことができると本文中では言われています。それほどまでにキャラクターは重要です。

ジョジョにおいても荒木先生はそのキャラクターならどのように行動するかを感じ取りながら描いていたそうです。

キャラクターを魅力的に描くためにはそのキャラクターがどのような動機で行動しているかを明確にする必要があります。

そのキャラクターがなぜ行動をするのか、そして信じるものに向かって孤独に戦う姿が王道のヒーローなのです。

 

ストーリー

ストーリーは漫画を構成する2番目に重要な要素です。

ストーリーを作る上で特に重要なポイントは2点あります。

まずは起承転結がはっきりしていることです。

起で主人公を読者に紹介し、承で主人公を敵や困難に出会わせます。

転では主人公が困難に立ち向かいますがさらなる困難により窮地に立ちます。

結はもちろん勝利などのハッピーエンドです。

バトル漫画では主に起承転結の転が何度も続くような構成が一般的です。

 

2点目は、王道漫画は常にプラスのストーリー展開であることです。

現実世界では壁にぶつかったり、敗北が訪れたりします。

しかし王道のストーリーは常にプラス。常に上がっていくストーリーを読者は求めているのです。

世界観

世界観は読者が浸りたいと感じられるかどうか、そして実際に浸れるかどうかが重要です。

世界観はリアリティとも言い換えることができます。道具やメカの丁寧な描写や街並みの再現度の高さはもちろんです。

さらにその世界がどう言う構造になっているか(政治や組織構造)やスポーツを描くならそのルールや歴史に至るまで詳細に決定しておくことが重要です。

しかしここで決めた世界観を全て語ることは避けます。

劇中で語りきれないまでの世界観を構築しておくことが没入できる物語の世界をつくるのです。

テーマ

最後にテーマについてです。

テーマは直接的に語られるものではありません。

重奏低音のように物語の裏側に存在し続けています。

テーマとは作者のものの考え方や生き方が反映されます。

作品をつくる上でどういう書き方を選択するかはテーマが根底にあります。

例えばジョジョのテーマは人間讃歌です。人間は素晴らしいということがテーマにあるので主人公たちは自分の力で困難を切り拓いていくのです。困難で何かが急に助けてくれることはないのです。

 

まとめ:漫画だけでなくあらゆる表現に生かせる本

漫画術とタイトルにありますが、あらゆる物語表現に生かすことができます。

さらに、キャラクターと自らの人生を重ね合わせることで自分の生き方にも繋がりを感じました。

ジョジョが売れ続ける理由の一端と、一流の思考の深さを感じる本です。

荒木先生の漫画力は知っていましたがここまで入ってくる文章を書くとは驚きです。

この本を読んで物語作品に対する新たな視点を手に入れてみてはいかがでしょうか?

 

荒木飛呂彦の漫画術 (集英社新書)

荒木飛呂彦の漫画術 (集英社新書)

 

 

つづく…